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■ 原マンション管理士事務所
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◎マンション管理問題判例
7.6 マンション漏水事故について管理組合は責任を負うか
弁護士 中島 繁樹(中島法務事務所)
福岡地方裁判所 平成11年8月23日判決
1.こうして漏水事故が発生した
マンションにとって漏水事故は付き物ともいえますが、福岡市にある Sマンションでは、平成7年と平成8年に立て続けに4件の漏水がありました。
まず平成7年5月に、屋上に接する庇の上にある排水管にゴミがつまって、そのため庇の上に雨水がたまってしまいました。溜まりすぎた雨水が通気管を通って建物内に浸入し、最上階の9階にある903号室に流れたのです。これを屋上排水管事故と呼ぶことにしましょう。
次に平成8年1月に、5階の503号室の玄関の廊下の床の板張りのすぐ下のところで、排水管が亀裂してしまいました。そのため、漏水した水が、下の階の303号室に流れたのです。これを床坂下排水管事故と呼ぶことにしましょう。
さらに平成8年8月には、台風による集中豪雨があり、飛んできた葉っぱ等のゴミがバルコニーに排水口をふさいで、そのためバルコニーに雨水が溜まった903号室のバルコニーの水は、同室に浸入しました。また、同じ日に溢れるほどに雨水が溜まったのは403号室のバルコニーも同様でした。この部屋には人が住んでいませんでした。そのバルコニーの水は同室に浸入し、その水が下の階の303号室に流れたのです。この二つの漏水事故をバルコニー事故と呼ぶことにしましょう。
2.被害者は訴訟を提起した
このマンションでは、共用部分の日常の管理を管理会社に委託していました。また、管理組合は共用部分について、保険会社との間で施設所有者賠償責任保険という名の損害保険の契約をむすんでいました。
前述の漏水事故で被害をうけたのは、903号室の区分所有者と賃借人の妻、303号室の区分所有者とその妻でした。この4人が、管理組合と管理会社と保険会社を相手として、総額3,206万円の損害賠償を求めて訴えを起こしたのです。
このように大きな金額になったのは、高価な着物等が多数被害を受け、さらに部屋の内装の修理代がかさむという理由によります。
通常、マンションの漏水事故でまず責任を追及されるのは、その漏水の原因をつくった個人です。これは民法の定める不法行為責任の法理によります。また、共用部分に漏水の原因があった場合であれば、その共用部分の共有者である区分所有者全員が過失のあるないしに関わらず最終的な責任を負います。これもまた、民法の定める土地の工作物責任の法理の帰結です。漏水の原因をつくった個人でもなく、区分所有者本人でもない管理組合が賠償責任を追及されること等、ないはずでした。しかし、この被害者は区分所有者全員を被告にするという方法をとりませんでしたし、また5階の床坂下排水管の所有者を被告にするという方法もとりませんでした。そして、被害者4人は管理組合を被告にえらんだのでした。
なぜ管理組合が被告に選ばれたのか、原告となった被害者4人の真意は不明ですが、被害者のうち2人が区分所有者本人なので、自分と同じ立場の他の区分所有者24人を被告とすることに訴訟上の難しさを感じたのではないか、また903号室の賃借人に妻が同室の区分所有者を訴えることに訴訟上の難しさをかんじたのではないか、また303号室の区分所有者の妻がその夫を訴えることを嫌ったのではないか、と思われます。
3.ここが焦点になった
当然のこととして、まず管理組合に責任があるのかないのかが問題とされました。管理組合は区分所有法で共用部分の管理に権限をみとめられているとしても、その権限を行使しなかっただけで、賃借人の妻とか区分所有者の妻等のような第三者に対してまで不法行為の責任をおうのでしょうか。
屋上の庇の上の排水管について管理組合がいつも管理することなどできません。管理組合の管理責任はこんなところまで及ぶのでしょうか。玄関の板張り床の下の排水管は、床板下排水管は専有部分なのか共用部分なのか、共用部分であるとしても、管理組合の管理責任はこんなところまで及ぶのでしょうか。
バルコニーは共用部分なのでしょうか。共用部分であるとしても、管理組合の管理責任はこんなところまで及ぶのでしょうか。
第2に、管理会社は、管理委託の当事者でもない第三者に対してまで不法行為の責任をおうのでしょうか。
第3に、保険会社が直接第三者に対して保険金の支払義務を負うことがあるのでしょうか。
4.管理組合の不法行為責任
管理組合はボランティア組織の共有財産管理の団体です。通常、法人格もありません。そのような団体が、何もしなかったというだけの理由で他人の損害について弁償の義務を負わされてはたまりません。
管理組合はこのように主張しました。これに対する裁判所の判断は次のとおりでした。
「管理組合は、その組織、理事の存在、総会の運営方法等に照らして、権利能力なき社団と解される。権利能力なき社団にも不法行為責任を認めうることは多言を要しない。
共用部分については、本来最終的な管理責任を負う本件マンションの区分所有者により構成された管理組合が、管理権限を有するのみならず、その責任と負担において管理を行うこととされている(本件規約)。したがって、管理組合が共用部分を管理すべき義務を負う以上、その義務違反が不法行為又は債務不履行責任を構成する可能性がある。
管理組合による管理義務の懈怠が不法行為を構成するには、管理組合について、その管理する共用部分において事故の予見可能性ないし事故を回避するための作為可能性の存在と、その作為義務に違反した事実がみとめられなければならない。」
管理組合の不法行為の要件を指摘する初めての司法判断でした。
5.屋上排水管事故の責任
上記のような不法行為の要件に当てはめると、管理組合の責任はどうなるでしょうか。
裁判所の判断は次のとおりでした。
「屋上排水管のある庇の部分に達するには、本件マンション南側の棟の10階部分から、幅約40cm、ビル10階建て相当の高所にある隙間を渡って、庇にある北側の棟の屋上へ行くこととなるところ、この隙間を渡ることは非常に危険であること、このため、本件マンションの50歳代後半の女性管理人に清掃させることができず、管理組合の委託を受けた管理会社が毎月1回特に人員を派遣して庇の部分を清掃していたことが認められる。
この事実に基づいて検討するに、本件屋上排水管事故以前に本件類似の事故が発生した事実が認められない以上、管理会社から毎月1回を超える頻度で危険を冒して屋根の庇の部分まで人員を派遣して清掃されなければならない事情は窺われず、当時管理組合がそれ以上の頻度で清掃を実施すべき義務を有していたと認めることは困難である。また、以前に類似の事故が発生した事実が認められないことから、管理組合がその後行われたような排水管の改修を本件屋上排水管事故以前に行うべき義務も認め難い。」
6.床坂下排水管事故の責任
床坂下の排水管は専有部分に属するのか、それとも共用部分に属するのか、実務や判例において見解の別れるところです。
実務では通常、床坂下の排水管は専有部分として取り扱われています。通説の上塗り説によれば、壁については壁紙から手前の部分、床についてはコンクリートから上の部分が専有部分です。この範囲内にあってコンクリートの上を這っている排水管は、専有部分と見られます。その排水管がずっと先のほうでコンクリートの中に入り込むに至れば、それから先は共用部分と見られることになります。
以上のような実務の考え方に対し、異なる見解の裁判例があります。東京地裁の平成3年11月29日の判決は、次のように言っています。
「本件雑排水管は、部屋の目に見える場所に取り付けられ、かつ、区分所有者の好みで器具の選択等の余地のある給水管とは異なり、共用部分と見られる床下と階下の天井との間に敷設されており、特に区分所有者の好みで維持管理を行う対象となる性質のものではなく、雑排水を機械的にスムーズに流すことにのみ意味があるに過ぎず、少なくとも維持管理の面からは、むしろ、本件マンション全体への付属物というべきである。」
以上のような見解の対立のある中で、本件の福岡地裁は次のように判断しました。
「そもそもこの排水管の所在する専有部分の床下について、これが専有部分か共用部分かが問題になる。そこで検討するに、階下との境界部分に囲まれた空間のみを専有部分とすれば、区分所有者の所有権の行使を不当に制限して妥当でなく、階下の他室等との境界をなす中央部についてはこれを共用部分とし、その上にある床下の空間等はこれを専有部分と解するのが相当である。
したがって、この排水管は床下の空間部分にある以上、専有部分にあることになり、この排水管が専ら
503号室の用にのみ供されていることも考慮すれば、この排水管は専有部分に属する建物の付属物であって、共用部分ではないというべきである。
したがって、この排水管の管理責任は503号室の区分所有者が負うべきであるから、管理組合は、この事故についても不法行為責任及び債務不履行責任を負われない。」
前述の東京地裁の判決とこの福岡地裁の判決は逆の結論になっています。逆の結論になった理由は、前者においては管理組合が床下排水管について取替工事をする権限があるか否かが問題になったのに対し、後者においては管理組合が通常関知しない床下排水管について漏水の責任まで負うのか否かが問題になったという事情にあります。妥当な結論を導くことを要請されている裁判所としては、それぞれ、妥当な結論に必要な理論を採用したものと考えられます。
7.バルコニー事故の責任
バルコニーは通常、共用部分であるとされています。本件マンションでも、規約においてバルコニーは共用部分であるとされ、当該バルコニーに接する住戸の区分所有者が専用使用権を有します。そして、バルコニーの管理は通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければなれません(本件マンションの規約も中高層共同住宅標準管理規約も、このように定めています。)・
このようなバルコニーについて、管理組合に管理の責任があるのでしょうか。被害者の主張は、「この事故の発生した台風接近時にバルコニー排水口の目詰まりを防ぐことは、バルコニーの通常の使用に伴う管理義務の範囲を超えており、管理組合が管理責任を負うべきである」というものでした。
これに対する裁判所の判断は、次のとおりでした。
「本件事故は、バルコニー排水口からの雨水の排水という、バルコニーの通常の使用過程で生じた事故であって、その雨水が台風の直撃によるものであり、水の葉が台風により飛来したものと推定されることを考慮しても、バルコニーの使用自体の性格としては、通常の使用と異なることにはならないといわざるをえない。
してみれば、この事故は、通常の使用に伴って生じたものというべきであり、その管理は、各室の専用使用権を有する者が責任をもって行うものというべきである。
なお付言すれば、以上は本件各事故について、専用使用権を有する者が有責であると述べる趣旨ではなく、有責か否かを判断するには、さらに、その台風による各事故の発生が不可抗力か否か等の検討が必要であると思料する。」
8.管理会社の責任
管理会社の責任について、裁判所の判断は次のとおりでした。
「共用部分である屋上排水管に関して生じた事故については、本件管理委託契約により管理組合から共用部分の管理を委託された管理会社にも、この排水管を管理すべき契約上の義務が認められる。したがって、管理会社がこの契約上の義務に違反した場合、これが債務不履行となりうることはもちろん、場合によっては、共有施設の管理懈怠が不法行為を構成する可能性があることも否定できないところである。
しかし、管理組合から管理を委託された管理会社においても、当時屋上排水管事故の発生を予見できたとはいえず、事故発生箇所の清掃に危険を伴うこと等をも勘案すれば、管理会社としては、月1回程度職員を派遣し清掃に従事させていたことをもって、この排水管の清掃等に関し、マンションの管理会社として通常履行すべき管理義務を果たしたというべきである。
床坂下排水管事故及びバルコニー事故については、管理組合にその各事故の発生箇所を管理すべき責任は認められないから、管理組合から本件管理委託契約により管理を受託した管理会社にも、
これを管理すべき責任はない。」
9.保険会社の責任
保険会社の責任について、裁判所の判断は次のとおりでした。
「管理組合に本件各事故について責任原因が認められない以上、原告らの管理組合に対する不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権は、認められない。したがってそもそも原告らの管理組合に対する債権が認められない以上、原告らは、管理組合の保険会社に対する保険金請求権を代位行使できないといわざるをえない。」
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