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■ 原マンション管理士事務所
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◎マンション管理問題判例
7.5 フローリング騒音を理由とする防音工事及び損害賠償請求
弁護士 奥田 克彦(無法松法律事務所)
東京地方裁判所 平成10年1月23日判決
1. 事案のあらまし
本件は、地上10階地下1階建てのマンションの2階に住む原告らが、ちょうど真上の3階に住む被告らに対し、床をフローリングに改装したことによって耐え難い騒音が生じたとして、必要な防音工事と損害賠償を求めた事案です。これに対し、被告らは、原告らの過剰な抗議行動によって私生活の平穏を害されたとして、原告に対し損害賠償を求める反訴を提起しました。
2.争点
原告の主張は、次のような骨子からなります。
@ 被告らは、昭和63年12月に階下に住む原告らに挨拶もなく全面改装工事を行った。それは、カーペットをすべて取り払って全面フローリング床とするものであった。
A また、被告らは浴室の床面をはつるという躯体の改造をも行った。
B のみならず、被告らは床を踵でける等して階下に騒音を与えた。これに対し、被告側は次のように主張しました。
@ 被告らが303号室を使用することによって、階下の202号室にもたらされる音の状態は受忍限度内のものである。
A むしろ、原告らの過剰なリアクション(度重なる抗議書の郵送・電話等)によって被告らは私生活の平穏を害された。
3.裁判所の判断
裁判所は次のように判断し、被告の主張を全面的に認めました。
@ 303号室は和室と LDを一室に改造し、床をフローリングとしたが、床下の根太の上には遮音材が敷かれている。浴室の床ははつられていない。
A 改装による騒音状況の変化については、ア) 軽量床衝撃音−家具を引きずる場合等に生ずる軽く硬い音−と、 イ) 重量床衝撃音−子供が飛び跳ねる場合等に生ずる音−とに分けて判断し、ア) 軽量床衝撃音については、被告らが改築後カーペットを敷く等の措置を講じたため、遮音値35〜45で日本建築学会基準にてらしても「非常に優れている」 レベルにあるとし、イ) 重量床衝撃音については、もっぱらコンクリートスラブの剛性と厚さに影響されるところ、本件改築工事においてそれらに変更は加えられていないから、基本的に変化がないと判断しました。他方で裁判所は、
@ 原告らは平成元年秋以降3年以上にもわたり、昼夜の別なく202号室の天井・壁・柱等を長いときは1時間も叩く等したこと、平成5年以降も被告ら「フローリングの音がうるさい」として303号のドアを叩き続ける等の行為に出たことを認め、
A さらに双方に弁護士がついてからも、原告らが威圧的に「静かにするように」と被告宅に電話を繰り返した事実を認定し、原告のこれらの抗議行為は被告に対する暴力行為に匹敵する違法行為にあたると判断しました。本件は、フローリング騒音の被害者とされる原告の請求が棄却され、かえって、原告の執拗な抗議行動が不法行為を構成するとした点で特殊な事件といえるでしょう。
4.その他の判例
そこで、本件に関連して、フローリング騒音に関するこれまでの判例の流れを見ておきましょう。
(1) まず、後に紹介する平成8年の判例までは、フローリング騒音について防音工事請求・損害賠償請求とも認めないというのが判例の傾向でした。
東京地判平成6年5月9日は、真上の部屋に住む被告がフローリング工事を行ったことによって、生活騒音が直ちに響くようになり、不眠症・ストレス性の顔面神経麻痺等に苦しんだ原告が損害賠償を求めた事案ですが、裁判所は次のように述べて原告の訴えを退けました。
「マンションのような集合住宅にあっては、その構造上、居宅の騒音等が他の居宅等に伝播して平穏な生活を害するといった生活妨害の事態がしばしば発生するが、この場合は、加害行為の有用性、妨害予防の簡便性、被害の程度及び存続期間、その他の双方の主観的、客観的な諸般の事情に鑑み、平均人の通常の感受性を基準として判断して、一定限度までの生活妨害は社会生活上やむをえないものとしてお互いに受認すべきものである一方、受忍限度を超えた騒音・振動による他人への生活妨害は、権利の濫用として不法行為を構成する」としながらも、本件においては、
@ 被告宅の騒音の発生源は家族による起居、清掃、炊事等の通常の生活音にかぎられており、また騒音の発生時間帯も比較的短時間であること
A 被告が、原告からの苦情を受けた後は、テーブルの下にじゅうたんを敷き、こどもの遊具の制限をする等の配慮をした点を尠酌し、被告に注意義務に反する違法は認められないとしました。
この事案においては、被告が敷設したフローリング床の衝撃音の遮断性能値が「L-60」という、十分遮音効果をもたない材質あったにも関わらず、原告の請求が棄却されています(遮断性能については、7.3節参照)。その意味で、フローリング騒音に対する、これまでの裁判所の消極的な態度がうかがわれる判例です。
(2) しかし、平成8年に至り、フローリング騒音が受忍限度を超えて不法行為になるとした判決が出ました(東京地八王子判平成8年7月30日)。
この判決の事案は、被告が絨毯張りの床を管理規約に反して改築し、厚さ150ミリのコンクリートスラブの上に非防音タイプのフローリングを直張りしたため、階下に住む原告が復旧工事と損害賠償請求を行ったというものです。この事件において、裁判所は、
@ 非防音タイプのフローリングを直張りしたため、絨毯敷きの場合に比べ防音効果が4倍も悪化したことを認め、平均人の通常の感覚を基準にしても社会生活上の受忍限度を超え違法なものと判断したが、
A 原告の人格権の侵害を理由とする騒音の差止め(復旧工事)については、それによってもたらせる被告側の不利益も考慮して棄却した、というものです。
(3) 上記判決によって、裁判所がフローリングによる騒音を原因とする損害賠償について、これを肯定する立場をとることが明らかになったと即断することはできませんが、裁判の場においても、フローリング騒音の深刻さに対する理解が深まっていることは間違いないでしょう。
5.所見
確かにフローリングは、みるからに清潔で、ダニの心配もなく快適なことは間違いありません。しかし
下の階の住民にとって大変な騒音や振動の原因になっていることも明らかであります。
そこで、中古マンションの場合管理組合としては、マンションのスラブの厚さに応じて、どの程度の遮音
性が必要であるかを検討し、フローリングへの改築については許可を要するように規約を改正する等の
装置をとるべきではないでしょうか。
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