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■ 原マンション管理士事務所
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◎マンション管理問題判例
7.3 フローリングの騒音トラブルに伴う賠償請求
弁護士 田中 峯子 (港共同法律事務所)
東京地方裁判所 平成3年11月12日判決
集合住宅における音の問題は、ピアノ殺人事件に象徴されるようにトラブルの元凶といっても過言ではありません。住宅金融公庫付きの分譲マンション購入後、1年経過した5,000人を対象に調査をした結果を見ると、全体としての満足率が85.5%であるにも関わらず、「上の階から伝わる音」に対する不満は45.3%と非常に高くなっています。ダニやカビの予防床材としてもてはやされているフローリングの騒音トラブルも何回となく新聞紙上に取り上げられましたが、ここでは、裁判で争われた具体的なケースを紹介します。
1. 事案のあらまし
本件の裁判の内容を要約すると、次のとおりです。原告である Aは昭和45年から本件マンションの9階に夫婦と子供2人ですんでいました。その直上の10階には老夫婦が床ボードの上に絨毯を張って寸でいましたが、平成2年4月頃、被告となる Bが10階のこの室を購入し、床をフローリングに改造して夫婦と子供4人の6人ですみはじめました。ところが、B家族の歩く足音、椅子等を引きずる音、掃除機の音、戸の開閉音、子供らが椅子から飛び降りたり床の上で跳びはね、かけずる回る音に A家族はなやまされました。
A は下記のように主張しました。「これらの騒音は重低音を伴うもので自分たち家族にとっては我慢の限界をはるかに超えたものである。この騒音は朝の6時から真夜中の2時ごろまで響き、そのため自分たち家族は静かな状態の中で仕事や生活をすることができず、安眠を妨げられ、夫のAは偏頭痛が発生し、手術後の妻は安静にできず、子供たちの受験勉強が妨げられるという被害をうけている。
この騒音は今後も反覆的に続くと思われる。このような騒音をたてる行為は不法行為であるので、
@ 木製床(フローリング)を畳敷又は絨毯敷に変更せよ
A @の変更を完了するまで本件木製床を使用してはならない
B 木製床の工事を始めた日から1日1万円の慰謝料を支払えと、AはBに請求しました。
一方、Bは、フローリング工事は遮音性を高めるために行ったもので、その音はいわゆる受忍限度内である、と反論しました。受忍限度とは我慢のできる範囲内ということで、不法行為を成立させる違法性がないということを意味する。
2. 裁判所の判断
(1) 裁判所は騒音を判断するため、10階で通常の体格の男子を歩かせ、また中学2年の男子をスキップさせてその音を裁判官が9階で聞くという検証(裁判官が現場で体験すること)をしました。その検証の結果、歩行音はほとんど気にならず、スキップ音は少し気になる程度であるから受忍限度内であると判断しました。
一方、子供が椅子から飛び降りたり、跳びはねかけずり回る音は検証しないまま、この音は、長時間にわたって続くものではなく、子供らが日常生活を営むうえで不可避的に発生するものであり、一方このマンションは、20年以上前に建築されていて都心に存在すること、A も2子を育てあげていることを考慮すると、この音も受忍限度内であると認定し、Aの請求を棄却しました。
(2) 判決はこの認定に付言して、人間の感覚には個人差があり、現に原告が本件訴訟を提起するほどうるさく感じていることを被告も十分留意し、子供らに注意をして日常生活を送るべきである。他方、原告も子供は兄弟喧嘩をしたり跳びはねかけずり回ったりするものであることを思い、ある程度のことは大目にみてやるべきであると判示しました。
3. 所見
(1) 音を判定するに際し、裁判官の1人の体験で判断することは極めて難しい問題です。にも関わらず、本件の検証では歩行音とスキップ音の検証しかせず、椅子をひきずる音、戸の開閉音、子供の飛び跳ねる等の音が検討で省略され、追認するという判決文となっていることは疑問といえます。被告の日常生活から発生する同時発生音、長時間反復される音、子供らの飛びはねる等の強い衝撃音等、受忍限度を認定する基礎となる事実と十分検証した後に判断すべきであったと思われます。
(2) 受忍限度を認定するにあたり、判決は被告側の事情として子供の出す音は不可避的であること、他方、原告側の事情として原告も2人の子供を育てあげたことを理由として原告に受忍するよう認定していますが、これは子供をもつ親に対し、本件のような騒音については、忍耐しろといっているとしかとれません。また、古いマンションとか都心のマンションに居住する者は、騒音に対し受忍しなければならないことになります。しかし、都心においてマンションが不可欠に住居となっており、居住者は他人に迷惑を及ぼさないよう自己の生活を規制していかなければならないというマンションの基本的な住み方をこの判決は十分理解していないのではないかと疑問を抱きます。
(3) 今後も発生するであろうと思われる音の裁判について、本件のごとく一裁判官の主観的な認定や思考性に基づく判断ではなく、科学的な知見を伴う客観的判断が加味されることが望ましいと考えます。フローリングを遮音加工した場合、L−45、L−50という数値がカタログ等に表示されています。これは日本建築学会の遮音性能基準で定められているもので、Lとは衝撃音の大きさを表示しています。詳しくは次の表のとおりです。
| 遮音等級 |
遮音等級に対する集合住宅の生活状態 |
| 足音・走りまわる音等に対しての感じ |
集合住宅の生活状態 |
| L-40 |
遠くから聞こえる感じ |
気がねなく生活ができる |
| L-45 |
聞こえるが気にならない |
少し気をつける |
| L-50 |
ほとんど気にならない |
やや注意して生活する |
| L-55 |
少し気になる |
注意すれば問題はない |
| L-60 |
やや気になる |
お互いにガマンできる程度 |
| L-65 |
気になる |
子供がいると下階から文句が出る |
この遮音性能についてほとんどのカタログでは、コンクリートスラブ厚が150mmを前提として表示されています。したがって、スラブ厚120mmであるマンションでは同じ L値がいくつであったか、コンクリートの
スラブ厚は何ミリであったか、施工に先立ちスラブの亀裂は全部補習したか、等の科学的な判断が受忍限度を認定するにあたり加えられていないのが残念に思われます。
4. 今後の問題
(1) (財)日本建築総合試験所が1991年1月、フローリングの性能についてカタログ表示の遮音性能より劣った製品が多くあるという下記のような検査結果を発表しました。
| 遮音性能 |
検査数 |
一致 |
1ランク下 |
2ランク下 |
| L-45 |
5 |
1 |
3 |
1 |
| L-50 |
25 |
7 |
5 |
3 |
| L-55 |
16 |
5 |
11 |
0 |
以上のように、製品を保証している遮音性能より劣っている不良製品が多いこともトラブルの一因となっています。したがって、今後はフローリングの遮音性能についてもJASの不可性能としての品質性能基準を満たした製品にAQ認定制度を実施してほしいと考えます。
(A) 本件のような騒音のトラブルを避けるためにも、まずマンションの新規分譲においては当初からL−45より高い遮音性能をもつフローリングを分譲業者は施工すべきでありましょう。
また、既存のマンションにおいては、管理組合等で研究し、区分所有者集会において、改造する場合のフローリングの L値を定めておくことが騒音のトラブルを予防する重要な対策であるといえるでしょう。
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